ー 略

 カラララ・カラララ・クックックッと
 モリアオガエルは鳴くという。
カエル族の擬音は多彩で、
たとえば詩人の三好達治は
「 けりけり 」と表した。これは春の初蛙。
同じく那珂太郎氏は夏の合唱を
「 ぎよぎよ 」。
俳人臼田亜浪に
< けくけく蛙 かろかろ蛙 夜一夜 >
の句がある。
そして「蛙の詩人」の草野心平。
「 けくっく けくっく」 と鳴くかと思うと
「 ぐりけっぷ ぐりけっぷ 」
と鳴いて奔放自在だ。
川内村を愛し、名誉村民でもあった心平さんに
「婆さん蛙 ミミミの挨拶」
という短詩があったのを思い出す。


<地球さま。/永いことお世話さまでした。/さやうならで御座います。/
ありがたう御座いました。/さやうならで御座います。/
さやうなら。>


この世の去りぎわ、
命をもらって生かされた天地(あめつち)への、
老蛙の素朴な感謝が人間にはこたえる。
身ひとつで命を全うする他の生き物と違い
収奪し、汚染し、破壊して鬼っ子さながら。
ひとり人間だけが
「直し方の分からないものを壊し続け」ている。

ー略


*掲載日不明 朝日新聞「天声人語」より